< 一服一縁 >
2000年10月8日

<一服一縁 2000年10月8日>

僕は去年まで銀閣寺近くに住んでいたのですが、
当時しばしば近所のカフェや哲学の道などで
とても素敵な老夫婦のカップルを見かけました。
日本人男性と、外国人(白人)女性のカップルで、
お二人ともおそらく80歳ぐらいの印象でしたが、
とても仲良くいつも手をたずさえながら、
優雅に散歩あるいは喫茶していて、
「すごいかっこいいカップルだな〜。
年とったらああいう感じでありたいもんだね」と
いつも妻と話をしていました。

そんなある日、ふと見かけた京都の老人クラブの冊子に
お二人のことが紹介されていました。
それによると、お二人は20年程前、お互いが60歳過ぎてから
哲学の道で出会い、国際老年結婚されたそうです。
男性は長年連れ添った奥さんを亡くされたところで、
女性はパートナーと別れ、俳句の研究のために一人来日していた時の
出会いで、それぞれ互いの言葉も分からぬままの結婚だったそうです。

僕はその記事を読んで、ますますこのお二人のお話を
じっくり聞きたくなって、その後もお二人を見かけるたびに
よっぽど声をかけてみようかと思ったのですが、
やはり理由もなく話し掛けるのも失礼かな、
思っているうちに日が経っていました。

そんなところ先日、
以前僕がこのお二人のことを話したことのある新聞記者の方から、
「今度、夫婦の在り方をテーマに連載をするので、
例の国際老年結婚の御夫婦を紹介してほしい」との依頼がありました。
僕はこれ幸いと、お二人と記者の方を引き合わせるお手伝いをしつつ、
その取材に同行して、ようやくお二人と知己を得ることができました。
で、お二人と話をして何より僕がびっくりしたのは、
お二人がいまだにお互いの言葉(英語と日本語)をわからないまま、
20年以上いつも一緒にいるということです。
逆にお二人に言わせると、別に言葉はわからなくとも
お互いの気持ちはいつも充分理解できるので不自由はないし、
特に学習する必要がなかった、ということらしいです。
お二人を見てると、いかに自分が、
言葉というものに頼りがちなコミュニケーションをして来たか、
また、そのことが自らの心を不自由にして来たか、
ということに気づかされました。

「私、二週間ぐらい英語をしゃべれない時もあるから、
ぜひ私の英会話の相手をしにちょくちょく遊びに来てください」
と奥さんにおっしゃっていただいたので、
今後も、この興味津々な人生の大先輩お二人から
いろいろ有意義な話を聞かせていただこうと思っています。
もちろん僕も、あまり英会話に自信ないんですけど・・・。
(奥さんは旦那さんのことを「Happy Old Man」と呼んでます。
「Happy Old Man」いい言葉です。)

西日本にお住みで読売新聞を講読されている方は、
このお二人の記事が11日の朝刊の家庭欄に掲載されますので、
よかったらお読みください。

一服のつもりが二服ほどになりました。
ではではまた。
茶を!

三枝克之

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