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y o u r d r e a m s
 

『漂亀』

BY

松本小銀杏さん


 
 僕は中華料理屋の2階、かなりの広さの座敷にいる。なにの集いかは分からないけれど、50人程いるようだ。お店の照明の色は黄色く艶やかで、派手な壁飾りなどを一層際立たせ、高級なのか、そうでないのか判別できない。座敷の上には、大きくて長く立派な机がいくつかあり、僕はそのうちのひとつに、促されることもなくついた。すでに机の上は大皿の料理で埋め尽くされていて、先ほど厨房から運び出されたようにスープからは湯気がたち、アメはまだ柔らかそうだった。

 さぁ、どの皿から取り掛かろうかと眺めていると、ひとつだけ、気になる皿がある。なにやら動いているのである。じっくり見てみると、熱そうな琥珀色のスープの中で、10センチ程の亀が一匹いて、もがいているでもなく、プルプルとランチュウのようにただよっている。泳いでいる。本来は透明で、全身がゼラチン質なのか、甲羅までスープの色に染まっている。プルプルしている。少しかわいい。

 これは僕には食べられないなと思うより、本当にこれは食べ物なのかという疑問が沸いたが、僕は他の皿に気をそらすことにした。

 と、大皿にこれまた大きなヒラメの煮付け(中華風)があるではないか。ただ、この皿だけはテーブルの上ではなく、僕の座っている後ろの畳の上に置いてあった。机に乗り切らなかったのかしらん、などと考えながら、その皿が乗るようにテーブルにスペースを空け、不精なスタイルながら、腰をひねった状態で大皿をヨイショと持ち上げ、見事ヒラメに取り掛かることが出来る準備が出来た。

 そのとき、ふと先ほどの亀が気になり目をやると、背中(あるいは甲羅)におもいっきり箸がぶったっている。箸の先をたどっていくと、保育園からの幼馴染(10年近く連絡もとっていない)のジョア(本名 アズミタカシ)がいる。

 彼はその箸を何のためらいもなく開き、いとも簡単に亀は一口サイズだけ切り取られてしまった。それを口に運んで、満足そうにクニクニしている。

 少しあっけにとられている僕の顔を見て、おまえも食べろと勧めている。クニクニしている。亀は動かなくなってしまっている。