Today's Terapika寺門孝之です。

Back Number 20021027

 

 2002年10月27日、日曜、晴れ。

 ついに冬将軍がやってきたそうで、ここ神戸・北野も昨日の夕方からぐっと気温低下、寒いでス。アトリエは古い古いマンションで、窓も閉まらない箇所が多く、寒い冬には震え上がっちゃいます。こないだまで暑い暑いと絵の具とともに汗滴らせていたのが不思議な、日本の四季の巡り。

 子供たちの成長と同じく、この季節の巡りも、僕に流れる時間をずんずんずんずん進めてしまって、日々は紙切れのように過ぎて行ってしまいますが、それでもこの秋は、僕、結構過ぎ行く時のスピードに抵抗してるつもり。僕も一生懸命、走っています。ココロだけだけど。

 17日は博多・天神IMSへ12月〜の展覧会の撃ち合わせ。チラシ・ポスター、「闇妹」になるようです。「闇妹」強いです。

 翌18日は早朝飛行して東京へ。横尾忠則展観たあと、赤坂にて作家・夏石鈴子氏、マガジンハウス・キイレさんと会食。装画を描かせていただいた氏の『家内安全』が野間文芸新人賞にノミネートされてるそうで、受賞が楽しみ。

 後、東京都写真美術館で四国霊場八十八ケ所・空海と遍路文化展鑑賞。これがなかなかのおもしろさ。

 後、リトルモア・孫氏に誘われ、野戦の月/海筆子『阿Qゲノム』を観に東小金井の野外テントへ。桜井大造氏の芝居を観るのは何年振りだろう? 20年くらいは経ってしまっているか。これがなんともなんとも美しい芝居でココロに染み入るようだった。共演している台湾の役者さんたちの強烈な気配にぢんぢんする。喝采。

 翌19日、上野から水戸へ。寺門のルーツの地である瓜連へ、墓参りに。父と。祖先の気配濃厚。のろしのようにたちのぼる焼香。父祖たちからの伝言。静神社、へも連れて行ってもらった。シヅ、と読む。

 瓜連=ウリヅラは、アイヌ語で「丘」という意味とのこと。この土地にもはるか太古から人々が集まり、暮らしていたのでしょう。僕の父方の血の連なりに縄文の濃さと冥さを感じた。(ちなみに母方の血は九州〜関西系らしい。以前、考古学者・佐原真先生に縄文/弥生チェックをしていただいたところ、僕は半分半分、とのことでした。このところ佐原先生のことがなにかと思い出される。頂いた御著書の数々が、今になってとっても勉強になっています。そちらの様子はいかがですか? いまさらですがご冥福をお祈り申し上げます。どうぞこれからもお導きくださいますよう…)

 水戸か〜、「水」、「水道の国」…。水戸を度々訪れてみようと思ふ。

 翌20日、茨城県立近代美術館にて小川芋銭展、ドイツ表現主義の芸術展。小川芋銭展は今回の水戸訪問の目的のひとつ。河童を主なモティフとした不思議な画家。予想以上の面白さだった。

 後、スーパーひたちとひかりを乗り継いで大阪へ。長山現氏主宰の劇団=楽市楽座『かもめ』を観に、中之島剣先公園のバラ園の先の先に立つ円形劇場ラフレシアへ、どしゃぶりの雨の中を。

 長山さんは僕の大学時代の先輩で、当時からずっと一貫して野外テント演劇をつづけている。いつもは彼自身作の美しい戯曲を演るのだが、今回はチェーホフの「かもめ」。なんと今回の円形劇場はよりによって舞台がしつらえてある真上の真中の天井がふき抜けて、天空。なので、役者たちはどしゃぶりの雨のスポットライトを浴びつづけながらの演技となってしまった。

 のだが、これが演出意図であるとしか思えない美しさと、必然性を醸し出してしまっているからおそろしい=美しい。特に終盤近く、絶望したコースチャがかもめの目の穴の中で、書き連ねていた原稿を雨を仰ぎながら破り捨てつづけるシーンは、涙も出やしないほど打ちのめされた彼のココロの穴が天に外在化し、そこからとめどなく「水」が降り注いでいるように見え、ムネがしめつけられた。

 トリゴーリンを演じた戎屋海老氏も大学時の先輩で、当時から長山氏と芝居をやっていた人だが、僕は海老氏の演技も大好きだ。彼以外に決して見る事が出来ない様式と、なんともいえない上品な奇妙さと虚無は、今回、トリゴーリンという人物像の造形にたいへん寄与していた。美しく残酷でステキだった。そしてなによりもニーナを演じた佐野キリコという人がよく、僕はあらためて「芝居」、長山さんのいうところの「劇」の魔法に酔っ払わされました。

 今回の旅では、テント芝居をふたつも見ましたが、どちらもとても多いとはいえない観客を劇はあたたくつつみこんでくれ、これほどの贅沢は今、ほとんど無い!と思いました。

 それは吉野・丹生川上神社での先の長屋和哉さんの奉納演奏も同じで、声高なプロモーションや情報を振りまくこともなく、ささやかに、縁あってそこへ集う人とひっそりと執り行われる「まつり」、でした。こういう「まつり」に、たまたまいあわすことがかなうと、僕は、ココロもカラダもヨロコブのだということが、最近ようくわかってきました。

 さて、そうそう、その吉野・丹生川上神社での先の長屋和哉さんの奉納演奏の日のこと、僕と長屋さんとが出会った夜のことを、長屋さんが彼のホームページに書いていらっしゃいます。ぜひ、訪ねてみてください。

「ドラゴンマウンテン 10月26日」

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 長くなっちゃいました。書きたいことはまだ色色ありそうですが、今日はこのへんで〆。

 旅の途中のような気持ちでアトリエに滞在しているような気分で。

 寺門孝之

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